プラスチックは、金属と比較して軽量・自己潤滑性といった利点がある一方で、「熱膨張」が大きいため寸法変化への注意が大切です。今回は熱膨張が樹脂歯車に与える影響と対策についてご紹介します。

１．熱膨張と熱膨張係数について

熱可塑性樹脂は温度が上昇すると徐々に物性が低下したり熱膨張が発生するため、プラスチックギヤの品質維持には温度特性を考慮した歯車設計が重要です。

熱膨張とは、温度変化によって物体の長さや大きさが変化することで、使用する材料によって変化量は異なります。各材料の変化量は熱膨張係数（温度が1℃変化したときの変化量を比率で表したもの）を参考にすることで大まかに把握することが可能です。

基本的にプラスチックの熱膨張係数は金属の10倍程度と言われ、金属歯車より寸法や摩擦量の変化が大きくなります。

２．熱膨張がプラスチックギヤに与える影響とは

上述したように、熱可塑性樹脂は温度変化により物性の低下や熱膨張を引き起こします。プラスチックギヤにおいても様々な影響があり、これからご紹介する4つの影響を抑えることで高品質歯車の設計・開発を加速することに繋がります。

１）歯の曲げ強度・耐久性の低下

プラスチックギヤでは、歯面の相対すべり速度や歯車材料の摩擦係数などにより歯面温度が上昇すると、曲げ強さなどの機械的強度が大きく低下します。熱伝導率が低く熱を蓄積しやすいプラスチックギヤにおいて、機械的強度が低下することは歯車の強度・耐久性を著しく低下させるため注意が必要です。

２）摩擦・摩耗量の増加

プラスチックギヤは温度上昇による熱膨張で寸法が変化し、摩耗性を大きく低下させます。摩擦摩耗特性の低下が起きると、歯面の活性があがり摩擦係数が高くなるのです。つまり、寸法の変化や摩耗特性の低下により、摩擦・摩耗量が増加し効率的な力の伝達ができなくなるのです。

３）騒音の発生

上述したように、プラスチックギヤの温度上昇は歯の曲げ強度・耐久性・摩擦・摩耗に影響し、騒音までも発生させることがあります。例えば、熱膨張を考慮した適切なバックラッシが設定されていない場合、温度上昇が原因で摩擦が大きくなり、摩擦音などの騒音が発生するのです。

３．熱膨張への対策

熱膨張に関する対策やノウハウは各歯車メーカーによって様々ですが、今回は基本的な熱膨張への対策をご紹介します。

１）潤滑剤の活用

潤滑剤の塗布は最も簡便で即効性がある対策です。グリースなどの潤滑剤は、摩耗低減効果がある一方で塗布層が簡単に除去されやすく、再塗布が必要になります。

２）低摩耗性樹脂の選択

低摩耗性樹脂（摺動グレード）による内部潤滑は、潤滑剤の活用と比較すると即効性はありません。しかし、摩耗・摩擦により表面層が除去された場合でも修復されるため、長期間での使用が可能です。

３）熱膨張を考慮した歯車設計

採用する樹脂の特性を十分理解したうえで、適切な設計を行うことが重要です。正しい歯車設計が行われないと、歯車のかみ合い不整や歯の破損が生じます。適切な歯車設計を行うためには、プラスチック歯車の温度上昇の基礎データ採取も有効です。

４）温度上昇の基礎データ採取

歯車を駆動させた時の温度予測は容易でないことから、強度計算による材料の許容応力を推定することは難しく、耐久性の予測は困難を極めます。また、高温雰囲気下など過酷な環境下での使用の増加や安全性を追求することが年々増えてきており、高い強度保証が求められるようになってきました。そのため、種々の材料や異なる温度雰囲気下での強度・耐久性データを採取し、ベストな樹脂選択と歯車設計を行うことが製品価値の向上に繋がると考えております。

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４．グリース潤滑に関する研究成果をご紹介

無潤滑およびグリース潤滑実験による歯車の耐久性

熱膨張の対策として潤滑剤の活用をご紹介させて頂きました。今回、どの材料でどのくらいの効果があるのかを明確にすべく、POM、ナイロン、PI、PEEKの4種類10パターンで耐久性の比較試験を行った研究成果を一部ご紹介させて頂きます。

５．まとめ

今回は熱膨張が樹脂歯車に与える影響と対策についてご紹介させて頂きました。プラスチックギヤの試作・開発段階から熱膨張への理解を深めることで、騒音や耐久性への対策も可能です。ギヤプラスでは、設計支援や強度・耐久試験も行っております。プラスチックギヤでお困りの際はお気軽にご相談下さい。